本研究は、日常生活において実用的に用いられている繊維製品の光変退色における耐光堅ろう度を明らかにすることを目的とした。分散染料による染色布へのマルチクロマティックな光による照射実験とともに、モノクロマティックな光による分光照射実験を行うことにより、染色布の光変退色特性を解明するとともに、紫外線吸収剤(UVA)の変退色防御効果の波長依存性を作用スペクトルにより提示することに主眼をおいた。その際には基質の相違による影響に着目した。その特性解明に当っては、照射エネルギーを基準として検討した。その結果、以下の知見を得た。 1.汎用されている4種類の分散染料によるポリエステル染色布を対象として、ベンゾトリアゾール系UVAによる耐光堅ろう度を検討した。ポリエステル布上で、UVA1%o.w.f.において25%〜55%の変退色防御効果が認められた。照射波長別の分光照射により、紫外領域において変退色防御効果が顕著であるとともに、染着したUVAの光吸収率を上回る効果が生じることが明らかとなった。UVAの作用は単純な光吸収のみによるものではなく、ラジカル反応の制御などの作用機構によって染色布の変退色を抑制しているものと推察された。 2.JISブルースケール規定の分散染料によるポリエステル染色布およびナイロン染色布の耐光堅ろう度を検討した。ナイロン布に対してUVAの防御効果は実質的に認められなかった。一方、ポリエステル布においては全ての染色布においてUVAの効果が認められた。UVAは光を吸収する機能に加え、一重項酸素^1O_2を消去して染料分子の酸化を防止すると考えられ、染料分子の還元によって変退色を引き起こすと見込まれるナイロン染色布に対しては、UVAは機能を果たさなかったと推察された。
|