研究概要 |
本研究の最終目的は,廃羊毛の機能化のための化学処理の開発であり,今回はその基礎研究となるものである。従って,実験試料は廃羊毛の代わりに,リンコルンもしくはコリデール種羊毛のトップをさらに精製した羊毛繊維を用いた。羊毛ケラチン中のシスチン残基をシステイン酸残基に変換するためにこの羊毛繊維を既存の方法を参考にして過ギ酸酸化した。酸化処理は0℃の過ギ酸中に羊毛繊維を浸漬し20分間攪拌して行った。この条件で酸化した羊毛中のシステイン酸残基は543μmol/lであり,これと当量のスルホン酸基がケラチン中に生成したことになる。 上記の酸化羊毛と未処理の精製羊毛のアンモニアに対する吸収性能をテドラーバッグ法で評価した。この結果,両試料とも高い吸収性能を示し,特に酸化羊毛のアンモニア吸収速度が著しく速いことが明らかとなった。 そこで,アンモニア,メチルアミン,ジメチルアミン,トリメチルアミン,エチルアミンなどのアミン類に対する吸収速度を,繊維製品新機能評議会によって提案された方法を参考にして測定することを試みた。すなわち,窒素置換した500mlのフラスコに4.17mol/l濃度のアミン水溶液20μlと内部基準としてエーテルを10μl注入した後細かく切断した試料を0.5g加え,ガスクロマトグラフでアンモニアあるいはアミンの減少速度を測定した。この結果,未処理羊毛および酸化羊毛はともにアンモニアおよびメチルアミンを吸収したが,特に酸化羊毛の吸収速度は著しく速く,1時間以内に検知不可量まで減少した。他方,アミンの置換基であるアルキル基が大きくなるほど,また置換基数が多くなるほど,両羊毛試料の吸収性能は低下し,これらアルキルアミンの羊毛への吸着にはアルキル基が立体障害として強く影響を及ぼすことが明らかとなった。
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