研究概要 |
本研究の最終目的は,廃羊毛の機能化のための化学処理の開発であり,今回はその基礎研究となるものである。従って,実験試料は廃羊毛の代わりに,羊毛繊維(トップ)を用いた。昨年度は過ギ酸処理により羊毛ケラチン中のシスチン残基をシステイン酸残基に変換すると,アンモニアおよびメチルアミンのような置換基の小さい1級アミンに対する吸収能が極めて高くなることを見出した。そこで当初の予定を若干修正し,今年度も引き続き酸化羊毛と酸化後さらにサクシニル化しCOOH基も導入した羊毛におけるアンモニア吸収能を検討した。酸化後サクシニル化した羊毛は酸化羊毛比べてアンモニアの吸収能は低かった。この理由として,サクシニル化処理では水酸化ナトリウムなどを用いるため,処理羊毛中のSO_3H基およびCOOH基がナトリウムを主とする金属塩を形成していることが考えられた。酸化後サクシニル化した羊毛を脱塩処理し金属を脱離させると,アンモニア吸収能は向上した。酸化後サクシニル化し脱塩した羊毛の1回目の吸収能評価実験での吸収能は酸化処理のみの羊毛より低かった。しかしこの評価実験を繰り返すと,2回目以降は酸化羊毛を超えるアンモニア吸収速度を示した。このことは処理羊毛中のCOOH基にもアンモニアは収着するが,SO_3H基に比べて収着速度が遅いことを示している。 さらにアンモニアを繰り返し吸収させた場合の酸化羊毛の吸収速度の変化を検討した。1回目の評価実験では500mlの三角フラスコ中に含まれた約14000ppmのアンモニアが1時間でGCで検知不可の濃度にまで吸収された。しかし同実験を繰り返すと徐々に吸収速度は低下し,4回目には4時間後でも初期濃度の約60%のアンモニアが残存していた。他方,同処理羊毛を0.0005M希硫酸1Lで洗浄後水洗すると再び初めの試料のように高い吸収能を示すことが明らかになった。
|