研究概要 |
低温環境に適応した微生物や動植物の場合、生物体自身の凝固点を環境温度より低下させて凍結を防止するために、「不凍タンパク質」を生体内に生産しており、その優れた機能特性は、生態系の自然循環の中に取り込まれる生物資源(バイオマス)の有効利用の面からも、食品や医療分野をはじめ、物質生産,環境保全等の広範囲な応用開発が期待されている。 そこで本研究では、安全性や生産性を考慮してワカサギから不凍タンパク質を精製し、不凍タンパク質の諸物性および食品への添加の影響を多角的に究明し、新規食品添加物の創製など、応用開発に直結した基礎的知見を提供することを目指している。測定手段としては、粘弾性解析システム,示差走査熱量測定計(DSC)およびクリープメーター物性試験システム(本年度科研費にて購入)により比較検討を遂行している。 これまでの研究成果として、主として澱粉の老化抑制に及ぼす不凍タンパク質添加の効果を追跡したところ、いずれの測定方法においても、AFPの極めて特異的な性質が見いだされた。すなわち、老化抑制効果を示すのが、10μg/mlというような通常では検討されることのない非常に希薄な濃度において顕著に表れるところにあり、さらに添加濃度が高くなると、全く影響を示さなくなることも明らかになった。先行研究においても、各種食品の品質管理にプラスの影響を及ぼす濃度は、このような希薄な濃度範囲に限定されていることが確かめられているため、今後は澱粉と不凍タンパク質の相互作用のメカニズムを分子論的に明らかにする必要があり、引き続き検討してゆきたい。これらの作用機序が解明されれば、資源の有効利用のみならず、経済性も加味しており、その応用開発への実現性は非常に高いものと考えられる。 なおこれらの研究成果は、第53回レオロジー討論会で報告し、現在論文にまとめている最中にある。また本研究に関連するものとして、循環型社会構築における生物資源の有効利用について、いくつかの論文.著書の中で紹介している。
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