研究概要 |
低温環境に適応した微生物や動植物の場合、生物体自身の凝固点を環境温度より低下させて凍結を防止するために、「不凍タンパク質」を生体内に生産しており、その優れた機能特性は、生態系の自然循環の中に取り込まれる生物資源の有効利用の面からも、食品や医療分野をはじめ、物質生産,環境保全等の広範囲な応用開発が期待されている。 そこで本研究では、安全性や生産性を考慮してワカサギから不凍タンパク質を精製し、不凍タンパク質の諸物性および食品への添加の影響を多角的に究明し、新規食品添加物の創製など、応用開発に直結した基礎的知見を提供することを目指している。測定手段としては、粘弾性解析システム,示差走査熱量測定計(DSC)およびクリープメーター物性試験システム(昨年度本助成金にて購入)により比較検討を遂行している。 これまでの研究成果として、昨年度に引き続き、澱粉に極めて低濃度(10μg/Ml程度)の不凍タンパク質を添加したところ、澱粉の老化が著しく抑制され、4℃にて保存3日後も老化が殆ど進行していないことが確認された。しかし、不凍タンパク質濃度が高濃度になると、むしろ老化を促進する傾向が見られた。そこで、不凍タンパク質と水との相互作用を重視し、さらなる検討を加えることにより、不凍タンパク質が澱粉の老化抑制を発現するメカニズムを解明するとともに、澱粉の老化の分子構造的変化の究明も試みたい。 不凍タンパク質の更なる潜在能力を見いだすために、微生物多糖類であるジェランガム溶液への添加を試み、そのゾル-ゲル転移に及ぼす影響を検討し、またゲルのテクスチャー特性,破断特性の変化を追跡した。特に、冷凍食品に対するゲルの冷凍・解凍耐性等の点において、不凍タンパク質添加が品質改善に有意に役立つことが見いだされた。その成果の一部は、関連研究会で発表し、今年度発刊の学術論文の一部にも加えた。また本研究の総合的な成果については、国際的な学術雑誌への投稿も検討中である。 一方、本研究に関連するものとして、循環型社会構築における生物資源の有効利用等について、今年度発刊のいくつかの論文、著書の中で紹介した。
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