研究概要 |
葉酸が欠乏すると、ホモシステインからメチオニンへの代謝が阻害され、血漿ホモシステイン濃度の上昇を引き起こすことが知られている。過剰なホモシステインは、血管内皮に損傷を与え、動脈硬化性疾患の一因になることが最近注目されているが、その機構については十分に明らかにされていない。そこで、葉酸の欠乏が、血管の機能にどのような影響をあたえるのかを検討した。 離乳直後の3週令オスラットを2群に分け、葉酸欠乏食(葉酸フリー)または対照食(葉酸8mg/kg diet)を各々自由摂取させ、実験食開始後4,6,8週目に血液と血管を採取した。血漿中の葉酸とホモシステイン濃度,血管中のTBARS,グルタチオン,ビタミンCの各量を定量した。また、血管の弛緩・拡張反応や動脈硬化の発展・進展に関与する血漿中の一酸化窒素(NO)量を、NO^<2->とNO^<3->の総和として定量した。さらに、血管内皮型NO合成酵素(eNOS)のたんばく質を、ウエスタンブロッティング法により測定した。また、動脈硬化発症の初期段階で作用する、接着分子の発現についても検討した。 血漿のホモシステイン濃度は、血漿葉酸濃度の減少に伴い、4週目から急激に増加した。血管のTBARS量は、6週目から増加する傾向にあった。一方、血管のグルタチオン量,ビタミンC量は、6週目から有意に低い値を示し、血管において酸化が亢進していることが明らかとなった。血漿中のNO量は、欠乏群で6週目から有意に低値を示し、eNOSたんぱく質量も減少していた。また、接着分子の1つであるVCAM-1のたんぱく質量は、欠乏群で増加していた。以上のことから、葉酸の欠乏によって血漿中で上昇したホモシステインが、血管に酸化ストレスをあたえることによって、血管内皮の機能障害を誘導し、抗動脈硬化因子である血漿NO量の減少や、接着分子の増加を引き起こしたのではないかと考えられた。
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