試験食摂取時の全唾液分泌能力測定、嚥下時食塊水分%、咀嚼運動(一口量咀嚼時間、一口量咀嚼回数、咀嚼頻度)測定、食行動質問表を用いたアンケート調査により、全唾液分泌能力と嚥下時食塊水分%、咀嚼運動、日常の食行動、BMIのそれぞれの関係について検討した。全唾液分泌量測定は、算定法を改善したchew-and-spit法、咀嚼運動観察はデジタルビデオカメラで撮影し、のちに映像を解析し、一口量咀嚼時間、一口量咀嚼回数、咀嚼頻度を算定した。また食行動質問表により、体質や体重に関する認識、食動機、代理摂食、空腹、満腹感、食べ方、食事内容、食生活の規則性の解析、BMI算定による肥満度測定を行った。その結果、試験食摂取時の全唾液分泌速度の低いものは嚥下時食塊水分%が低く、また一口量咀嚼時間が短く、一口量咀嚼回数が少ない傾向が見られた。また全唾液分泌能力とBMIとの間には負の有意な相関が認められた。さらに全唾液分泌能力が低くBMIの高い肥満者において、食行動質問表の得点が高く、食行動の「ずれ」と「くせ」が見られた。以上の結果は、全唾液分泌能力が咀嚼運動や嚥下時の食塊の性質に影響し、さらに食行動そのものの「ずれ」や「くせ」を誘発し、ひいては肥満を発症させる可能性を示唆した。全唾液分泌能力が低い場合、日常の食生活において、嚥下時に必要な唾液が少なく、水分含量や脂肪含量の高い、いわゆる食べやすい食品を選択するようになり、このような食行動の「ずれ」や「くせ」が肥満発症の原因になることが推定された。
|