これまでの食材の加熱に関する実験研究において、一連の食材モデル系及び各種の実用食材を対象に、食材の加熱面からその内部一次元方向xの位置の温度φ(t)と加熱時間tとの関係が指数式で表されること、その指数式に現れる遅延時間τ(x)と試料加熱面の面積Sとの比が、各試料の熱拡散率αとべき指数の関係にあることを明らかにした。 このような研究の流れを被加熱試料の面で展開するべく、今年度は水系と脂質系とが巨視的に混在するところの乳化系を取り上げ、その熱拡散率に及ぼす成分的要因を、乳化の型(すなわちO/W型とW/O型)を含めて検討することとした。 そのため、卵黄(低密度リポタンパク質)を乳化剤とし、コーン油を分散相とするO/W型エマルションの調製を行い、生成する分散油滴の大きさとその分布が乳化系の伝熱機構に如何に影響するかを精査するため、高精度のCCDデジタルカメラを備えた光学顕微鏡を用い、その画像解析を通して粒子分析(粒子の大きさとその分布の測定)を行い、併せて当該乳化系の熱物性諸係数の測定を試みた。 その結果、従来のデンプンモデル系と同様に、卵黄を用いたO/W型乳化モデル系においても、水の割合が大になる(すなわち油相体積分率が小になる)ほど、熱移動の指標である熱拡散率αが大となり、また試料内部昇温曲線から算出した遅延時間定数τ(x)も小となり、内部へ熱が早く伝わる状況が確認された。 引き続き卵黄に代わる乳化剤の種類を検討し、一連の乳化系の調製とそれらの熱移動に関する情報の収集をすることを検討している。
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