研究概要 |
本年度の目的は図形領域における小学校算数科と中学校数学科の連続性を考慮した指導方法を確立するために,課題1(図形の定義に関する児童・生徒の実態調査を行う),課題2(児童・生徒の実態を踏まえ,理論的に抽出されている要因を生かした授業を構想する)を解決することであった。 実際には,図形の定義に関する児童・生徒の実態調査を実施し,学年別,図形別による定義の理解状態の差異,図形の定義の理解と図形の包摂関係の理解との相関関係等の観点から調査結果を分析した。また,図形に関する諸概念の関係についての理解の状態を捉える枠組みに基づいて抽出した状態3から4への移行を促す要因(図形の概念をその定義にあてはまるものすべての集合であると考え,定義の意味を正確に捉える)を取り入れ,実態調査の結果を考慮して中学校2年生における図形の証明の単元内での学習指導を構想し,その実践を依頼した。この授業は学校側の授業の進度により今後行うことになっており,授業及びその検証のための調査の実施は来年度になる予定である。 また,本年度は理論研究として,以下の2つの結果を発表した。第一に,図形の定義指導の重要性を明らかにした。日本とフィンランドにおける図形の定義の捉え方に関する調査結果の比較により,我が国における図形の定義指導には一定の効果が見られることからその必要性が示され,また,定義の的確な捉え方が図形の概念間の包摂関係についての理解及びその活用を促進することが明らかになった。第二に,図形の概念イメージとのずれを視点として小学校6年生及び中学校2年生における定義の捉え方の実態を解明したところ,平行四辺形について,定義の捉え方が適切でも概念イメージは不的確であったり,的確な概念イメージをもっていても定義記述は多様であったりする等のずれが見られ,その解消を考慮した学習指導への示唆が得られた。
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