本研究の目的は、ジュネーブ学派の学習実験を手掛かりとし、縦断的な発達研究を通じて、生徒の図形認識および推論の発達過程を明確にするとともに、生徒の図形認識と推論の発達を支援する教授法を開発することである。本研究は、3年間の継続研究であり、本年度はその3年次として、以下の2種類の教授学的実験を行った。第1の実験は、生徒の図形認識の発達および推論の発達水準の指標を同定するための認知発達の縦断的研究である。そのため17年度から被験者として継続している中学3年生(200名)を対象とし、実験問題としては「平行四辺形の面積に関する問題」「三角形の面積公式に関する問題」「三角形の辺の垂直二等分線に関する問題」を用いた。その結果、生徒の図形認識については、図形の関係的認識、図形の変換的認識、図形の推論的認識について、それぞれ3つの発達水準を同定した。推論の発達については、図形の合成・分解にともなう推論、図形の変換にともなう推論、間接的証明にともなう推論について、それぞれ3つの発達水準を同定した。第2の実験は、生徒の図形認識と推論の発達を支援する幾何教授法の開発のために実施した。中学3年生(3クラス)を対象とし、実験問題として「相似図形に関する問題」を設定した。実験群として「認知的葛藤による方法」による授業および「弁証法-教授学的方法」による授業、統制群として通常の問題解決の授業を実施した。その結果、統制群に対して「認知的葛藤による方法」では、定理の手続き的適用から、図形認識を伴う定理の推論的理解へと認識の発展が見られた。「弁証法-教授学的方法」では、定理適用の可能性が議論され、定理適用における演繹的推論が精密化された。
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