本研究の目的は、縦断的研究法を用いて、図形に対する生徒の認知発達の特徴を明らかにするとともに、ジュネーブ学派の学習実験およびブロッソーの教授理論を手掛かりとして、図形に対する生徒の認知発達を支援する教授法を開発することである。この研究目的を達成するために、3年間を通じて2種類の研究を行った。第1の研究は、図形に対する生徒の認知発達についての縦断的研究である。この研究は実験校Aと実験校Bで実施した。実験校Aでは、中学1年生90名を対象とし、実験校Bでは、中学生1年生200名を対象として、3年間の縦断的発達調査を行った。第2の研究は、図形に対する認知発達を支援する教授法の開発である。ジュネーブ学派の学習実験およびブロッソーの教授学的場の理論を手掛かりとして、「認知的葛藤による方法」および「弁証法-教授学的方法」を用いた教授学的場によって教授法の枠組みを構成した。教授実験は、実験校Aで計画し、研究1年次では「二等辺三角形に関する問題」(1年生)、研究2年次では「平行四辺形に関する証明問題」(2年生)、研究3年次では「三角形の相似に関する問題」(3年生)によって実験授業を行った。第1の研究結果として、図形の合成・分解に関する認知発達は年次進行とともに水準を上昇させることに対し、図形の仮説・演繹的説明に関する認知発達は1年次の低い水準を保持する傾向が見られること、また図形の認知発達では生徒の個人差が大きいことが明らかになった。第2の研究結果として、定理の適用能力および証明の構成能力の評価において、「弁証法-教授学的方法」による授業クラス(実験群)、「認知的葛藤による方法」による授業クラス(実験群)の順で達成度が高く、通常の問題解決授業のクラス(統制群)に比べ差が大きかったことから、教授法の有用性が認められた。
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