研究概要 |
平成19年度は,平成18年度に引き続き,研究協力校を対象に学際的アプローチを行い,理科教育の研究者(清水)が科学的カリキュラムを開発し,認知心理学の研究者(高垣,田爪)が学習ツールの開発,及び科学的知識を構築していく過程の数量的かつ質的分析を実施した。 新規なカリキュラムとして,小学理科5年「ものの溶け方」の単元を取り上げ,子どもたちの「溶解現象における質量保存の概念」の獲得を促すために,心理学的教授枠組みを導入し『相互教授』と『概念変容教授』を関連づけた学習環境を考案した。これらの学習環境下で生成された,特定の個人の一連の発話と行為を追跡し,認知的及び社会的側面における要因の観点から微視的に分析した結果,以下のようなプロセスを経て,子どもたちの自然事象の理解が深められ,概念変化が促されていくことが確認された。 (1)認知的側面:目に見えない物質の溶解現象を可視化する『自己生成アナロジーモデル(微視的モデル)』を認知的道具立てとして用いながら,「関係べース」から「モデルベース」へと推論活動が移行していく過程において,『概念変容教授』で提示された「分かり易い」「多くの反証事例に一貫している」という特徴を持った新情報(科学的概念)が受容されていく。(2)社会的側面:参加者相互の理論構築のプロセスを集積した『理論チャート』を文化的道具立て(議論ツール)として用いながら,『相互教授』の「参加者の構造の役割」で責任を担う文脈において,「説得力のある言葉」を巡る「権力」の駆け引きが生じ,表層的ではない真の概念理解が達成されていく。
|