本研究の目的は、廉価なインターネットや汎用機器を活用し、海外の大学院生を対象とした、大学院専門教育のための同期型及び非同期型授業を提供する遠隔教育システムを構築し、その有効性を評価することである。平成18年度では、前年度に構築したシステムを運用し、その評価及び最適化を主な研究活動とした。そのため、中国側の研究協力大学で大学院生を2名募集し、福岡工業大学大学院の正規科目である「超伝導工学特論」を遠隔講義対象科目とし、このシステムによる授業を12回(1回当たり80分)実施した。 本システムの構築において、教師のパソコン画面の提示や黒板の板書などの、さまざまの授業スタイルに対応できるようにしているが、実際の授業運用では、黒板の板書を授業撮影用カメラで撮影し、ストリーミングデータとして転送する使い方が全授業時間の90%以上を占めた。これは、数式の展開など、板書を多用する当該科目の性格にもよるが、専門科目の授業では、板書は未だにもっとも効果的な教授手法の1つであることを裏づけでもある。黒板の文字などを識別させるために、受講生が遠隔から、授業撮影用カメラに対して様々な操作が自由にできるようにしているが、教師の説明を集中して聞くなどの時の操作活動が鈍くなることがわかった。また、教師の板書をノートに写すときのカメラ操作においても、学生は時々戸惑いを感じるという。 一方、遠隔講義システムによる授業は、普通の対面授業に比べて学生の反応をより意識し、授業のスピードや講義内容をこまめに調整するため、学生の満足度が高いという結果も、学生に対する聞き取り調査から分かった。
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