研究概要 |
本研究は,1880年代にわが国の教育博物館,文部省が普及しようとした物理実験機器が,1876年,ロンドンのサウス・ケンジントン博物館で開かれたスペシャル・ローン・コレクションに依存していたことを追跡して,その機器普及の科学史的意味を明らかにするものである。今年度は,そのコレクション展示会そのものの経緯,概要を調査しながら,展示会の歴史的意味とそれらの機器の特徴,日本への影響を検討した。 1.サウス・ケンジントン博物館は,1851年の大博覧会(第一回万国博覧会)の収益余剰金に国費を付加して1857年に創立されたが,科学と教育の発展のための科学機器の展示が当初から模索されていた。たとえば,科学・工芸局は,科学機器の製造促進と普及をめざした展示コレクションについての目録『講義と授業に適切な装置』を1865年に発行した。 2.スペシャル・ローン・コレクションは,大博覧会が貿易を視野にいれていたのに対して,科学機器の適切な利用と発展を視野に入れ,展示機器を紹介する講演会,展示機器に即してその歴史,利用を論ずる講演会が開催されていた。 3.同コレクションの準備では,パリ工芸学校博物館などの活動が参考にされ,各国で科学機器を活用・収集している専門家を委員に要請して,展示機器の選定をしていた。その結果,そのコレクションには,製造業者による機器以上に,18世紀,パリの科学の公開講座やライデン大学物理学講義などで使用された歴史的機器が含まれることになった。 4.文部省の教育博物館は,スペシャル・ローン・コレクションのガイド・ブック,機器目録を入手して閲覧に供したが,同館の『東京教育博物館選教育品目録』1882などによる機器の選定や,科学機器を使った「学術講義」の開催など,サウス・ケンジントン博物館と重なる活動が少なくないことがわかった。
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