本研究は、明治初期における金箔製造技術の実態を明らかにすることを主眼として行なわれた。その方法として、古法を遺している製箔工程すべてに渡る観察と調査を、京都と金沢において実施した。また、これらの箔を実際に使用、計測することで、さらに、新出史料、明治9年成立の『箔業用便覧』の解読を通し、そこに記載される技術用語や材料道具類などを現代のそれと比較することで、当時の箔業の様相を類推した。 これの研究調査から、明治初期の製箔の実際がどのようなものであったか、以下のような点が明らかになった。まず、製箔技術は、下地紙を箔打紙としていく仕込工程が、史料記載用語から、現行実施されている工程との間に大きな差のないことが認められ、このことから、今日、縁付箔製造で行なわれている技法が、明治初期における製箔技法を基本的にはよく踏襲したものであることが実証的に解明された。 また、昭和中期以降主流となった、工業製紙グラシン紙を用いて箔打された断切箔と縁付箔の相互比較では、箔の薄さは断切箔の方が優っていること。これに対し、今日ごくわずかに遺されていた「筋入れ」工程は、箔をより薄くするための工夫であり、明治初期にあってはこれが一般的に行なわれていたこと。当時は箔打師が多かった分、その技術個性による金箔性状の多様性が高かったこと、などが明らかになった。 本研究の意義は、伝聞でしかなかった古来の製箔実態の一端を、具体的に解明したこと。またこのことから、現今の製箔が抱える技術保存の切実な課題への対応検討に資する情報を得たこと、などにある。
|