研究概要 |
貝殻と石灰岩の形態識別に加え、貝殻は生物特有の多様な殻質層構造を持つことから,原材料を粉砕してもこれらの構造は残されるものとの考えに基づき,粒子の形状の観察による貝殻種の識別を試みた。これにより、顕微鏡を使った形態観察による貝殻の形態識別チャートを作成した(文化財保存修復学会第28回大会研究発表予定,2006)。また、貝殻や石灰岩が漆喰などとして使用する場合に製作工程上受ける化学変化が形状に与える影響を調査した。これにより,炭酸カルシウムを原材料に用いた文化財において,原材料を粉砕してそのまま使用したのか,もしくは焼成,消化などの製作工程を経た後に使用したのかを判断できるものと考えられる。数種の貝殻にみられる焼成,消化時の形態を把握している. 歴史資料は経年や保管される環境より影響を受けて劣化を生じていると考えられるため、原材料を粉砕処理した試料と、粉砕後に焼成(漆喰を想定)処理した試料を屋内外に12ヶ月間曝露し、経年変化を経た原材料の形態把握を試みた。異なる製作工程により形態変化にも特徴が表れたと共に、環境の違いが形態変化に影響を及ぼすことがわかった。 以上の結果を基に、知覧町内の遺跡に見られる漆喰資料を中心に形態観察・原材料の識別を行った。鹿児島県川辺郡知覧町で行われた菊目石を使った石灰つくりの各工程(未焼成・焼成・消化・漆喰)の試料を観察した結果を元に,近隣の歴史的建造物などから採取した歴史資料を観察した.その結果,各工程試料と同様の形態の粒子が確認され,原材料を同定できる可能性が示された.また,調査した歴史資料は,地域的な特性により漆喰に利用された原材料が歴史的文献の記載や現在もなお原材料や焼成窯などが存在していることが観察結果と一致していたことから,形態観察法を活用するに当たって,歴史資料の周辺環境などの情報を得る重要性があることを課題として挙げることができた.
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