研究概要 |
炭酸カルシウム系の白色物質は漆喰や顔料などに古来より多用されている.それらは経年変化や大気汚染などにより劣化崩壊が進んでおり,その修復・保存方法が模索されている.本研究は原材料の推定を(1)顕微鏡観察などによる形態学的分類から明らかにすると同時に、(2)経年劣化による形態への影響を調査した. (1)石灰岩と貝殻の粉砕された形状に着目し,漆喰などとして使用する場合に製作工程上受ける化学変化が形状に与える影響を調査した。それにより,その調整法や工程を推定する事ができた。さらに,貝殻は多様な殻質層構造を持つことから,原材料を粉砕してもこれらの構造は残されるものとの考えに基づき,粒子の形状の観察による貝殻種の識別を試み、各種の貝殻、石灰岩、ドロマイトの識別チャートを作成した。検証実験を鹿児島県知覧町内の遺跡を中心に行った。基準貝殻、石灰岩や菊目石などを元に,歴史的建造物などから採取した資料を観察した.その結果,原材料を同定できる可能性が示された.加えて、形態観察法を活用するに当たって,歴史資料の周辺環境などの情報を得る重要性があることを課題として挙げることができた. (2)2種類の貝殻(カキ,ハマグリ)と石灰岩を(2)-1粉砕,(2)-2粉砕後に焼成した試料を屋内と屋外に曝露し,屋内環境と自然環境の影響により劣化・変質した試料の粒子の形状について評価した.6ヶ月後の形状変化について調査を行った結果,透過率と形状に変化が生じた.(2)-1粉砕した試料は屋外に曝露したカキにのみ形状変化が認められた.(2)-2粉砕後に焼成した試料において,屋外と屋内では焼成後の水酸化・炭酸化の反応速度に違いがあり,屋外の試料には焼成後と炭酸化後の形状が混在していたのに対し,屋内の試料は炭酸化して崩壊する粒子もみられた.耐候試験機による強制劣化試験を行い,大気曝露との比較検討を試みた. 以上のことから、形態識別法による調査法を確立できた。
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