研究概要 |
600℃以上に加熱された土器や窯跡などの焼成考古遺物や焼石から抽出した石英粒子に対して、単分画再現(SAR)法を用いた天然蓄積放射線線量の見積もりと、それらの値に基づく年代測定を試みて相互比較し信頼性高い年代測定法を目指すと共にルミネッセンス年代測定法の高度化にむけて測定システムの改良を行った。ここでは、赤色・青色熱ルミネッセンス(RTL,BTL)や光励起ルミネッセンス(OSL)測定とともに,長石粒子による赤外光励起ルミネッセンス(IRSL)を適用した。 すなわち、古い考古学的試料として埼玉県出土の旧石器・北海道石狩川流域や新潟県で採取した縄文時代の焼石と土器片の年代評価や、奈良時代の新薬師寺や西隆寺の瓦の年代測定、とともに長崎や広島で発掘された被爆瓦の石英や長石粒子への残留放射線線量を評価・比較した。いずれもRTL測定が信頼性高いことを確認できた。更にTLのほかに、OSL測定を用いたベトナムの砂丘の生成時代も地質研究者と一緒に評価した。 ルミネッセンス測定装置は小型X-線照射装置を照射線源として用いてその有効性を国際学会でアピールし続けており、ようやく認められるようになってきた。しかしながら我々の開発して来たルミネッセンス測定システムでは外国製の測定器同様、500W以上の電力や冷却水を必要とし、X-線遮蔽用の装備も必要なため重量も50kg以上に達しており、野外や教育用への移動は困難であった。そこで、より小さなミニX線発生器を搭載し、空冷の金属光電子増倍管を備えた可搬型ルミネッセンス測定システムを開発しその性能が正確な蓄積放射線線量に適していることを確認できた。ルミネッセンスの発行メカニズム研究も新たな測定法の開発や高度化にとって重要である。そのため水晶薄片について放射線照射由来のカラーセンターの有り無しの2部位を選び、液体窒素温度から室温までのグロー曲線と電子スピン共鳴吸収(ESR)測定から、含まれるOH基がルミネッセンス現象を大きく影響していることを見出した。また、全ての石英には多かれす少なかれ、BTLとRTL成分が存在することも見出した。更に、ESR測定と不純物定量からBTLとRTLメカニズムにAl,OH不純物濃度とともに高温加熱と冷却速度が関与していることも解明できた。
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