研究概要 |
現在,世界の多くの粘土焼成煉瓦造建築物には,その歴史的価値から重要な文化財として指定されているものも多い。わが国においては明治期に多くの同建築物が生産されたが,関東大震災を境に生産されなくなり,現在では,文化財などとして保存要求のある同建築物も多い。しかし,保存の方針を決定するに当たって同建築物の構工法や材料に関する基本的資料が整理されていないため,未だに適切な保存方法が不明確であることも事実である。 本研究では粘土焼成煉瓦造建築物の長期保存の可能性を評価するに際して把握しておくべき煉瓦の物性に関する基本的資料を得ることを目的に,中国地方・九州地方・東海地方において採取した同建築物の躯体を構成する煉瓦単体17種類を対象として,製造期による煉瓦品質の変遷の一端ならびに耐久性の観点からの各種物性を一軸圧縮試験他により明らかにした。実験対象煉瓦には文化財として指定されている建築物に使用されているものも一部含まれている。 その結果,製造年代が下るに伴い,煉瓦の圧縮強度・ヤング係数は増加し,最大ひずみは減少するという傾向が確認され,煉瓦は低強度・高変形能力の煉瓦から高強度・低変形能力のそれへと変化していることが判った。 さらに,超音波伝播速度を測定し,これまでの研究によって得られた圧縮強度,耐凍結融解性,空隙特性ならびに乾湿ムーブメントなどの諸物性との関係について耐久性の観点から比較検討した。その結果,煉瓦単体の各種物性間に明確な関係を見出すことは困難であったが,長期保存の観点から,その基本として煉瓦単体の圧縮強度の高度化,ならびにムーブメントや毛細管の低減化などが効果的であることが確認された。
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