研究課題
本年度は昨年に引き続き図様復元と彩色復元に取り組み、復元模写制作に向け基底材の加工、白色下地の検討と試験及び研究対象作品に描かれる海面の色調とそこに使用された絵具について考察を行った。基底材は現地で研究対象作品の表面から削り幅やその長さなどを入念に調査し、研究対象作品の加工時にも用いられたと考えられる工具である、ヤリカンナを使用して表面加工した。研究対象作品の表面は檜の伐採時や丸太から板に剥ぐ時の加工が今回のものとは異なるため凹凸が大きいが、今回制作した基底材は模写の制作であり、図様の復元でもあることからやや凹凸を小さくし、作品として鑑賞しやすい様にした。白色下地は絵具を精製し、前回調査した光学機器による分析結果と比較検討をしながら試験片の作成を行っている。また、海面の絵具に関しては絵具の解明に取り組み、その製造方法及び色調を調査、試験を実施している。本研究は科学研究費の獲得により当初4年間の計画で実施し始め、本年度はその最終年度であった。しかしながら、再三にわたる目視調査や平等院及び東京文化財研究所との協力のもとに実現した大掛かりな光学機器による近赤外線画像デジタル撮影や蛍光画像撮影などの調査解析の機会にも恵まれたことによって、当初の想像を遥かに超える新見地や事実が確認され、その分析や検討に多くの時間を要することが判明した。研究成果としての復元模写を制作するにはその前段階の図様と彩色の復元にまだ不確定な箇所があり、分析や検討によって導きだした結果をできるだけ多く不確定な箇所に反映させるためにも模写制作を翌年度に持ち越すこととなっている。