蝦夷錦とは、前近代に、沿海州・サハリン(樺太)を経由して北海道に持ち込まれた中国製の絹織物の総称である。これまで、北海道や青森県で確認されている蝦夷錦は、50点ほどであるが、それらの多くは、その文様から推定して、17世紀以降のもの、つまり中国の清朝の時期のものである。ただし、文献史料による研究では、13世紀の元代、15世紀の明代にも、中国製の絹織物が北方から北海道に持ち込まれたことが分かっている。本研究は、明代に北海道やサハリンのアイヌ民族にもたらされた蝦夷錦を発見することを目的とする。 日本列島の北方史の研究が進むにつれて、蝦夷錦は、北方交易の証拠として注目を集め、研究も進んできた。ただし、それらの研究は、いずれも文様の形式に基づいて行われたものであり、資料を相互に比較してどちらが古いかという、相対的な年代決定を行ってきた。本研究は、14C年代測定の方法を用いることにより、蝦夷錦の絶対年代を明らかにすることをめざした。 研究計画の期間中に、ロシア連邦サハリン州、北海道、青森県、秋田県の蝦夷錦を調査した。さらに協力していただける場合は、分析資料を採取した。今回は、14C年代測定により、14点の蝦夷錦の絶対年代を明らかにすることができた。その結果、すべての蝦夷錦は17世紀以降の資料であることがわかった。これは、これらの資料が清代のものであることを意味し、明代に遡る資料は発見することができなかった。
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