本研究は火山地形を含む山岳地域を例にして、自然攪乱の時空間的な分布の特徴を長期的視点も取り入れて検討しなおし、地形変化と植生構造の関係を明らかにしようとするものである。本研究では特に植生帯境界に着目し、北海道から九州までの全国の火山の植生帯の垂直分布造と火山地形の関係を検討し、鳥取県の伯耆大山と長野県の焼岳については、標高の変化に沿った林分構造の変化と地形との関係を検討した。また焼岳地域では隣接する非火山地域である安房山も含めて、斜面の開析過程と森林群落構造との関係について、メソおよびミクロなスケールで検討を行った。この地域では標高1600〜1700m付近に亜高山帯針葉樹林と山地帯広葉樹林の境界が位置するが、ブナが優占する落葉広葉樹林は谷沿いに発達する開析斜面(上位、下位開析斜面)に集中する傾向があり、尾根から斜面上部を占める平滑斜面にはコメツガやウラジロモミの優占する常緑針葉樹林が成立していた。両者の移行部では、落葉広葉樹林は、南〜南東向き斜面に多いが、これは基盤岩の構造に起因する、開析斜面の方位分布と関係していると考えられる。移行部に設けた調査区での測量結果によると、傾斜変換線を境に、上部の緩斜面と下部の急斜面とで林分の組成や構造が異なり、ブナの大径木は遷急線より下方の斜面に集中していた。本地域の植生帯境界は一義的には現在の気候条件で規定されているが、境界のミクロな構造には斜面の開析過程が関わっている。
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