研究課題
基盤研究(C)
南極大陸沿岸域は、冷たく重い南極底層水の生成域であり、世界中の大洋に底・深層水を供給している。沿岸海洋表層の密度低下は、密度成層の強化を通じて海洋子午面循環の弱化を引き起こし、大気との熱交換に影響を与えて気候変動のトリガーとなりうる。このような気候変動において重要な過程を明らかにするため、極域海洋変動の実態を把握することが急務となっている。南極底層水の生成海域としてはウェッデル海やロス海が知られているが、近年アデリー海岸沖の重要性が注目されてきている。アデリー海岸沖では、これまでの幾つかの観測と2000年代に入って行われた日豪共同観測により、観測資料が蓄積されてきた。注意深く観測点を選択することによりサンプリング地点の相違による誤差を取り除いて解析を行った結果、アデリーランド底層水の長期的な低塩化傾向が明らかになった。低塩化の原因には幾つかの可能性があるが、母海水となる陸棚水の淡水化が考えられる。陸棚水の淡水化は、氷床融解の増加や積雪量の増加、海氷生成の減少などによって引き起こされうるが、その実態は明らかではない。この淡水化要因を特定するために、沿岸水の酸素同位体比のマッピングを開始した。本年度は、2004-05年に南極沿岸の四海域において得た海水サンプルについて酸素同位体比の測定を開始した。このうち、WOCE I9ライン(東経115度)およびロス海東経175度線ラインにおけるサンプルの分析を実施した。全体的に、陸棚水・南極表層水および南極底層水で小さい同位体比が認められた。特に、陸棚水の同位体比は最も小さく、氷床融解の影響を顕著に示している。また、ウェデル海東部において、より広範囲かつ空間分解能の高い同位体比分布を得るために、豪プロジェクトMARGINEX-WESTに参加し、海水サンプルを取得した。このサンプルは日本に持ち帰り次第分析を開始する。
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Geophysical Research Letters 32
ページ: doi10.1029/200 5GL024246