研究課題
南極大陸沿岸は南極底層水の生成域であり、世界中の大洋に底・深層水を供給している。南極沿岸海洋の密度低下は地球規模の海洋子午面循環の弱化を引き起こす。密度低下を引き起こす上で鍵となる淡水循環の変動要因を特定するためには、酸素同位体比を用いた解析が有効である。本最終年度は、まとめとして、i)南極底層水の塩分変化の解析と海水資料の酸素同位体比分析による解釈、ii)昭和基地での通年降雪・氷山サンプルの取得と分析を実施し、検討した。i)ウェデル海西部を除く南極海主要部で南極底層水の水塊変化傾向が得られた。ロス海、オーストラリア-南極海盆では低塩化が顕著であった。ロス海高塩陸棚水の水質は塩分0に対して酸素同位体比-36‰方向への変化を示すことから、観測された底層水塩分変化は氷床融解による影響を反映している可能性を示唆する。また酸素同位体比解析から、プリンセスエリザベストラフにおける南極底層水はオーストラリア-南極海盆の底層水と同様の性質をもち、過去に指摘された局在的な底層水形成には否定的な結果が示唆された。ii)2008年3月から12月までの降雪資料は平均して-24‰の値を示すと同時に、顕著な季節変動がみられた。氷山では-46‰程度の値が得られた。前年度までの外洋域での資料と併せ、インド洋区では、降水は-3〜-33‰、氷山は-32〜-46‰という値が得られた。こうした値は他海域で過去に報告されている値と整合的であり、本海域でも平均的には両者の効果を区別しうることを明らかにした。本研究で得られたデータが、今後の南極域における気候変動の原因を特定する上でのベースラインとして有効に活用されていくものと期待される。
すべて 2008
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Journal of Geophysical Research 113(C08038)
ページ: doi : 10.1029/2007JC004627
九州大学応用力学研究所所報 135
ページ: 89-93