過去32万年の気候変動記録を保持している南極ドームふじ氷床コアを用い、特に急激な気候変動を示す氷期終末期における海陸起源エアロゾルの濃度および組成の変動を明らかにした。終末期に該当する深度を中心に、500〜1000年間隔で、氷中Al、Na、Mg、Fe、Mn、Caの全濃度を測定した。本年度は70試料の測定を終えた。地殻物質の指標であるAlのドームふじコア中全濃度(t-Al)は温暖期に比べて寒冷期に比較的高濃度を示し、従来報告されているボストークコアやDome Cコアにおける時間変動と一致した。濃度範囲は3.94-276PPbとなり、最大値はボストークコアやDome Cコアで測定された濃度よりも2〜3倍大きかった。上記3地点とも、その近傍にAlの大きな供給源は存在せず、供給されるAlの大部分が長距離空輸物質であると予想されるため、この濃度差は地域変動とは考えにくい。ボストークコアやDomeCコアで得られている濃度は、ろ過法による粒子態濃度であることから、本研究で得られた結果は、南極氷床コア中Alは、ろ紙の孔を抜けてしまう微粒子画分が有意に存在していることを示している。また、溶存態の存在や、ろ過法による粒子損失の可能性も否定はできない。t-Fe、t-Mn、t-Caとt-Alの寄与率はそれぞれ94%、94%、88%と高い相関性を示し、回帰直線の傾きはそれぞれ0.61、0.014、0.42と平均地殻組成比にほぼ一致した。ドームふじコア中に含まれるこれらの成分は、地殻表面から放出された鉱物エアロゾルとして氷床に供給されたものが大部分であり、その組成は氷期サイクルを通して、大きくは変動しなかったことを示している。t-Ca/t-Al比のばらつきが比較的大きいのは、気候変動に伴いエアロゾル供給源や地殻乾燥度が変化したためかもしれず、この点については、来年度詳しく解析する予定である。
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