研究概要 |
南極海では大型動物プランクトンが生物量において卓越して分布しており、それらの生態学的役割についてはこれまで多くの研究により強調されてきた。しかし、個体数においてそれらを大きく凌ぐ小型動物プランクトンについての研究は少なく、生態学的役割はほとんどわかっていない。本研究の目的は南極海における小型動物プランクトンの生態学的役割を明らかにすることである。 今年度は,1993年の昭和基地周辺の定着氷下において,盛夏の太陽が水平線下に沈むことがない白夜期に,NIPRサンプラーによって4時間間隔で7回の海氷直下から海底までの7層で得られた標本に基づいて,小型カイアシ類のOithona similisおよびOncaea curvata2の夏季定着氷下における鉛直移動と摂餌速度について解析を行った。 白夜期,Oithona similisおよびOncaea curvataは,小さなスケールの日周期的な鉛直移動を行った。しかし,その移動パターンは,通常の動物プランクトンの鉛直移動のパターンと異なり,昼間表層に分布し,夜間深層に移動することが明らかとなった。こうした移動パターンを示すのは,海氷の融解に伴って放出される餌生物(アイスアルジー)の日周期的な変化に起因していることが示唆された。また,夏季これら小型カイアシ類2種の個体群の消費する1日当たりの炭素量は,融解に伴って海氷下部から放出されるアイスアルジー起原の総有機物のおよそ1/3に相当することが示唆された。 さらに,今年度は,東京海洋大学練習船「海鷹丸」によるリュツォ・ホルム湾域の小型動物プランクトンの調査を実施した。
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