最終年度である本年度は、前年度に重要性が認識された再懸濁過程に関して、東アジアモンスーン気候に伴う季節変化を重点的に調べた。1997年から2006年の10年間の海上風のデータを元に波浪予報モデルを用いた風波の推定を行うとともに、同じ期間の潮汐シミュレーションも行うことにより、月ごとの海底堆積物の再懸濁の発生頻度を推定した。その結果、海上風が強いため従来再懸濁の発生頻度が高いと見られていた冬季は、吹送距離が短く風波が発達しないため沿岸域を除いては風波による再懸濁はほとんど生じず、逆に夏季並びに秋季には台風接近に伴って外洋からの発達した長周期の風波が入り込むことから、水深の大きい大陸棚外縁部でも再懸濁の発生頻度が比較的高いことが判明した。さらに沿岸部では、モンスーン気候に対する堆積物の応答が場所により異なり、中国南東岸の外洋に面した部分では夏の再懸濁の発生頻度が高い一方、朝鮮半島南西岸では、海岸線の配置の影響で外洋からの波が入りにくく、さらには渤海から南東向きの波が入りやすいために、再懸濁は主に冬季に生じることが推定された。この推定結果は海域両岸にあたる中国、韓国沿岸域の地形変化の現場データと良く対応していた。本研究の成果は東アジア各国の防災に役立つとともに、黄海では海底の土砂の巻き上がりが栄養塩の供給、ならびに海水中の光量を左右する透明度に深く関与していることから、植物プランクトンやエチゼンクラゲの発生など生物環境の実態を把握する上でも役立つものと期待される。
|