研究概要 |
埼玉県西部に広がる丘陵地帯には,主に谷戸を堰き止めて作られた「谷池」に分類される数百の農業用ため池が分布している。したがって,それらのため池の集水域は,森林である場合が多い。一般に常緑針葉樹(以下,針葉樹と呼ぶ)と落葉広葉樹(以下,広葉樹と呼ぶ)では,落葉の生分解速度が異なることから,ため池に供給される落葉由来の物質負荷量や質に違いが生じている可能性がある。そこで,本研究では,まず,集水域の植生が針葉樹もしくは広葉樹が優占するため池の水質の特徴を明らかにする目的で調査を行った。さらに,ため池に落葉が直接落下した場合を想定した,落葉の種類の違い(クヌギもしくはスギ)のみ異なる条件で,実験池を用いた落葉の水質及び内部生産への影響について実験的検討を行った。 本研究をまとめると次のことが明らかとなった。 1)広葉樹もしくは針葉樹が優先するため池では,植生により形態物窒素の存在割合に違いが見られた。 2)Chl-a量で示された一次生産量(植物プランクトン量)はわずかではあるが,対照区に比べて落葉を投入した実験区で増加していた。一次生産量に及ぼす落葉の影響は,スギとクヌギはほぼ同程度であった。 3)実験池における落葉からのCOD, T-N及びT-P成分の溶出速度は,スギよりクヌギの方が大きかった。 4)実験池におけるCOD及びT-Nの最高濃度は,クヌギ区はスギ区の約2倍であった。T-Pの最高濃度は,クヌギ区はスギ区の約10倍であった。 5)実験池においてDO(溶存酸素)が5mg/L未満の状態がクヌギ区及びスギ区で1ヶ月以上継続した。ため池に直接落下した落葉は池水の低酸素化を引き起こす可能性がある。 6)実験池では形態別窒素は,クヌギ区及びスギ区のいずれもNO_2-Nはほとんど存在せず,NH_4-Nの形態で存在していた。これは,実験池の硝化が抑制される状態(嫌気)であったためと考えられた。
|