今年度は、一方で、市民及び市民運動についての概念的考察、さらに日本の社会運動史のなかでの市民運動の位置の変遷や市民運動と行政との関係の推移及び近年のその状況などについて先行研究をフォローするとともに、他方で、北タイを訪問してどのような条件のもとで環境市民運動組織が立ち上がっているのか、あるいはうまく立ち上がらなかったとすればその背景にどのような問題が見出されるかをヒアリング調査した。と同時に、タイからこの数年研究協力を行ってきた研究者を招き、関西及び東京のいくつかの環境市民運動について共同でヒアリング調査を実施した。 タイの研究者が成功している日本の環境市民運動組織を見た場合、一般市民の科学知識水準の高さとともに、行政のそうした組織に対する積極的な対応や情報の開放度がまず強く印象づけられるようである。しかしながら、日本においても行政はやはり権威的性格を持していたし、市民運動組織に積極的な対応を示したり、あるいは情報の公開度を高めてきたのはむしろ比較的近年のことである。かつ、そのように行政の姿勢を変化させてきたものは何であるのかと問うたとき、一部の運動組織からは市民がしっかりとした基礎的データを調査、蓄積し、それに基づいて行政に働きかけたことといった回答が戻ってきた。タイの研究者が強く印象付けられた2要因は関連していたわけである。また、自治体からは、施設整備といったハードによる対策の限界の自覚や国レベルでの法律の変化の影響といった要因も指摘された。加えて、成功している日本の市民組織がリーダーの人柄及び活動に内包される「楽しさ」をこぞって指摘していたことも興味深い。権威的性格を帯びた行政をいかに振り向かせ、適度な緊張を保ちながら協働してきたのか、また行政の側からいかに市民運動を育成・支援していったのか、タイへの適用可能性を視野にさらに調査・検討を続けたい。
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