化学物質により誘発されるメダカの肝腫瘍モデルにおける、ヒトで報告されている腫瘍関連遺伝子の関与を明らかにすることを目的に、メダカのβ-catenin遺伝子およびSMYD3遺伝子に焦点をあて解析を行なった。メダカのβ-カテニン遺伝子を検索したところ2種類のクローンが得られ、それぞれ2352および2325塩基対のORFを有し、予測されるアミノ酸配列はヒトのβ-cateninと比較してそれぞれ95%および87%の相同性を認めた。細胞内のβ-catenin量の調節に関与していると考えられるヒトのβ-catenin遺伝子のエクソン3領域にコード配列が存在するリン酸化部位はメダカの2つのクローンにおいても共に完全に保存されており、ヒトと同様な機序により細胞内β-catenin量が調節されていると可能性が示唆された。メダカの2つのクローン間では86%の相同性が認められたが、RT-PCR法による発現組織の違いは観察されなかった。N-nitrosodiethylamine(DEN)で誘発したメダカの肝腫瘍組織と非腫瘍組織とで、β-cateninの細胞内代謝に関連すると推測されるエクソン3領域の塩基配列を比較したが、タンパク質変異を引き起こすと推測される塩基置換は遺伝子レベルで検出されなかった。一方、SMYD3遺伝子の相同遺伝子をメダカでクローニングしたところ、1314塩基対のORFを有するcDNAが得られた。得られたメダカの相同遺伝子の発現を、化学物質で誘発した肝腫瘍組織と非処理メダカの肝組織とで比較したところ、無処理コントロール群のメダカ肝組織に比較して、腫瘍化した肝組織では高い発現が検出され、メダカの化学物質誘発性肝腫瘍においてもヒトの場合と同様にSMYD3遺伝子の発現の増強が腫瘍化に関連している可能性が示唆された。
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