近年になり、特に乳幼児の土壌経口摂取による鉛摂取など、乳幼児を中心としたヒトへの鉛暴露が問題となってきており、ヒト鉛暴露源の追跡はヒトの健康を守る上で重要である。そこでヒトへの非侵襲性試料である爪・毛髪を試料とし、固体状態で測定を行うため、LA/ICP-MSによる鉛同位体比測定法を開発し、ヒト中鉛の暴露源評価を目的とした。まずBCR397毛髪標準試料をペレット、または両面テープに直接付着させた試料を調製し測定法を検討した。測定値の規格化にはNIST981鉛標準試料を用いた。また、BCR毛髪標準試料に鉛同位体比の認証値は与えられていないので、酸素高圧燃焼法により毛髪を分解し、溶液ICP-MSにより鉛同位体比を求め、両者の結果を比較し方法の妥当性を確認した。ペレットでは精読よく測定が可能であった。テープ状試料ではペレットに比べ精度が劣るものの、同位体比測定は可能であった。採取した毛髪はまずペレットに調製し検討した。毛髪は灰化後、ペレットに調製し鉛同位体比を求めたところ、良好な結果が得られたが、前処理によると考えられるバラッキが見られた。次に灰化せずそのままの状態で両面テープに固定する測定法について予試験的に検討を行った。精度に改良が必要だが、そのままの状態での測定の可能性も見出すことができた。採取した毛髪についても、溶液ICP-MSで同位体比を比較し、両者が一致することを確認した。本研究で最も精度のよいペレットで毛髪の鉛同位体比を求めたところ、近接した地域での有意な差を認めることはできなかった。しかし、既報の文献値との識別は可能であった。精度の向上についてはさらに検討が必要であるが、本研究において、輸入品や長距離汚染で輸送された鉛などによる暴露源の識別の可能性を見出すことができた。
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