研究概要 |
環境配慮型生態系保全管理を実施した際の生態系への影響評価を行うことを目的として、以下の研究を行った。 1)汚濁負荷への影響評価に関する研究 京大和歌山研究林の人工林試験流域において斜面下部を切り残す方法で強度間伐試験を実施した。量水堰による水量モニタリングデータと気象観測装置による雨量データから、流入・流出水量を求めた。渓流水を月1〜2回定期的に採取して水質を分析し、主要カチオン・アニオン(Ca、Mg、K、Na、NH_4、Cl、SO_4、NO_3)、全窒素・全リン、溶存有機炭素濃度および3次元蛍光特性を求めた。これらのデータから森林生態系の伐採撹乱に伴う影響についての長期影響評価を試みるために、まず、北米で開発されたPnETモデルを日本の流域に適用するための検討を行い、PnET-CNモデルを用いて森林撹乱の長期影響予測を実施した。その結果、林齢に伴う現存量の頭打ちや加齢に伴う葉の窒素濃度の低下といったパターンはほぼ再現されたが、個々の数値には実測値と大きな隔たりがあった。このことから、諸現象の再現は擬似的なものに過ぎず、今後は水分条件や養分条件、根系の発達過程などを考慮したパラメーターの設定を行うことが必要であることが示唆された。 2)生物多様性への影響評価に関する研究 京大和歌山研究林および滋賀県高島市の施業試験流域で植物の種組成データの収集を行った。遺伝解析対象種として適当な植物種を選定し、マイクロサテライトマーカーの開発を試みた。また、既存の生物多様性指数に関する情報収集や比較検討を行った。 3)地球温暖化ガスへの影響評価に関する研究 森林における二酸化炭素収支を評価するにあたって、樹木の展葉期間が大きな決定要因の一つとして考えられることから、樹木の生息地の気温条件がその展葉期間に与える影響を評価するためのコスト-ベネフィットモデルを作成した。特定の気温条件の下での個葉の最適な展葉日・開葉日、葉寿命を求めた結果、平均気温が低く気温振幅の大きい条件では葉寿命は増加し、1年以上となる常緑樹パターンの解になりうることが示唆された。平均気温が高く気温振幅の少ない条件でも葉寿命が増加することがわかった。逆に平均気温・気温振幅がともに中程度である条件下では、葉寿命は減少する傾向が見られた。これらのことから、地球温暖化にともなう平均気温の上昇は温帯域での落葉樹の葉寿命を増加させる可能性が示唆された(Takada, Kikuzawa and Fujita,2006)。
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