研究概要 |
細胞のがん化は,突然変異と遺伝的不安定化の二段階でおこると考えられている。環境発がん物質の多くはこの第一段階に寄与し,突然変異を介しがん遺伝子の活性化やがん抑制遺伝子の不活性化をおこす。しかしヒトなどの二倍体細胞では,両方のアレルの不活性化が細胞がん化に必要であるため,遺伝的不安定化も重要である。本申請では,この遺伝的不安定性の指標としてLoss of Heterozygosity(LOH)を採用し、LOHこそが細胞がん化の律速段階であると考え,1)酵母二倍体細胞を用いたLOH誘導物質のスクリーニング法の確立,2)non-genotoxic carcinogen(non-GC)のLOH誘導性の検討,3)陽性物質のLOH誘導機構の解明を目指した。 その結果、検討した14種のnon-GCのうち、7種にLOH誘発性が確認され、それが正常アレルをもつ染色体の喪失によることが推定された。典型的な変異原は相同性組換え依存性の遺伝子転換や染色体間交叉によりLOHを誘発するため、non-GCとは機構が異なる。そこで陽性であった食品添加物o-phenyl phenol(OPP)の代謝物phenyl hydroquinone(PHQ)について機構解明を試みた。その結果、PHQが1)in vitroチューブリン重合/解離系で解離を阻害する、2)FACSにおいてG1期の酵母細胞に対しG1 arrest、S期の細胞に対してはG2/M arrestを引き起こす、3)G2/M arrestについては紡錘体のチューブリン抗体蛍光染色によりM期後期でarrestすることなどを観察した。 以上の結果は、遺伝的不安定化には、DNA損傷に起因する機構だけでなく、染色体分配に関わるタンパク質との相互作用によるエピジェネティックな機構があることを示唆している。このような機構による染色体不均等分配は、がん細胞でよく見られる染色体の異数化の原因であり、細胞のがん化との密接な関係が示唆された。
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