研究課題
基盤研究(C)
#1 近年我々は、PCBが甲状腺ホルモン(TH,T3)受容体(TR)を介する転写系に作用し、低濃度(10^<-10>M)でT3により活性化された転写を抑制することを報告し、その機序は標的遺伝子プロモーター領域からTRが部分的に解離することであることを明らかにした。従来、TRとDNAの結合はGel Shift法を使って証明されてきたが、放射性同位元素(RI)を使用する上、時間が48時間程度かかり、多検体のスクリーニング法として適さない。そこで非RI物質でDNAを標識した新たなスクリーニング法を考案した(Liquid Fluorescent DNA pull down assay ; LFDPD特許出願2006-064876)。この方法により結果が3-4時間で得られ、RIを使わずに、排出物を90%以上削減することができた。#2 PCBによる転写抑制はTHの1/1000という低濃度でも抑制するが、THの100倍程度の濃度でも抑制効果は有意差はなく、TRのリガンド結合領域(LBD)への競合的結合とは異なる機序が考えられた。そこで我々はPCBのTRへの作用部位を解明するために、TR及び、glucocorticoid受容体(GR)のN末端、DNA結合領域(DBD)、LBDを組み合わせて作成したキメラ受容体を用いて、レポーターアッセイを行った。転写が抑制されたのはGTT(N:GR、DBD:TR、LBD:TR)及び、GTG受容体のみであったことから、TRのDBDからLBDにかけての比較的広い領域にPCBが作用することが示唆された。このことをGel Shift法及び、LFDPDを用いて一致する結果を得た。#3 PCBより毒性が強いとされるダイオキシンについてTRの転写系に対する影響を調べたが、ほとんど認められなかった。また、代表的なPCB及び、PCDFを用いたがコンジェナーにより結果が異なることが明らかとなった。また、予備実験では転写を活性化するコンジェナーも存在するようであった。#4 細胞によりPCBの転写抑制の程度が異なること、特に脳由来の細胞においてその抑制の程度が強いことから脳内に発現している蛋白が、転写抑制を強めている可能性が示唆された。そこで、酵母膜蛋白を用いた新たな同定法であるSos-Ras Yeast Two-hybrid法を用いて胎児脳cDNAライブラリーより新たな核内蛋白を同定した。この蛋白は、ノーザンプロット法により広範囲に発現しており、転写コリプレッサーとして機能することが明らかとなった。今後、脳特異的PCB反応性TR結合核内蛋白の同定、機能解析を試みたい。#5 本申請で購入した倒立型顕微鏡の設定及び、予備実験が完了した。
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