本研究課題ではこれまで、マウス前立腺のアンドロゲン応答遺伝子を検索し、前立腺分泌タンパク質としてEAPA2やperox6等を初めて同定した。また、新生時期での応答遺伝子として、SBP、SPI、probasin、defensinβ1、sulfotransefease、PCP4を明らかにした。本年度は、これらの遺伝子発現へのエストロゲンによる内分泌かく乱作用とその修飾メカニズムにづいて検討した。 1)新生仔マウスに、低用量のエストロゲンを投与し、上記アンドロゲン応答性遺伝子mRNAの発現をみたところ、SBP、SPI、PSP94等の転写が一時的に抑制されることが明らかになった。しかし、これらの遺伝子の発現抑制は一過性のものであり、成体時の前立腺では差が消失していた。 2)内分泌かく乱物質に対する前立腺の唇受性を、新生仔期と成体期で比較した。両者の間で、アンドロゲン応答性は基本的に同じであったが、エストロゲンによる抑制作用は新生仔期でのみで見られた。一方、成体においてはエストロゲンリ連続投与により、むしろPSP94やperox6が相乗的に発現上昇した。 3)PSP94、EAPA2の遺伝子上流プロモーター活性をlucレポーターアッセイにより検討した結果、この領域がアンドロゲン応答性に関与することが示された。興味深いことに、これらのアンドロゲン応答性転写活性は、エストロゲン受容体共存下で上昇する。そのとき、エストロゲンリガンドがあると相乗作用が抑制された。これは、in vivoでのエストロゲンによる抑制作用を説明するものである。プロモーター上で、二種類の受容体がどの様に相互作用してこのような転写修飾がみられるのかはこれからの検討課題である。 新生仔マクスー(PND0-15)の前立腺おいて、エストロゲン物質が、アンドロゲン応答遺伝子発現を転写レベルで修飾(抑制)していることが明らかになった。アンドロゲン応答性の過程である腺管分岐に対しても同様な発現修飾がなされることが、内分泌かく乱物質による前立腺発達障害のメカニズムであると考えられる。
|