研究課題
高LET放射線である重粒子線の飛跡周辺の局所的エネルギー付与分布の違いが細胞のDNA損傷と放射線応答に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、実効電荷や粒子速度が異なる種々の重イオンマイクロビームを用いて哺乳動物培養細胞を照射した場合のヒット位置と細胞内DNA損傷あるいはアポトーシス誘発、非ヒット細胞におけるバイスタンダー効果、及び放射線応答蛋白質の発現誘導と局在性などの細胞内動態の解析のための細胞照射実験系を確立した。1)細胞への実際のイオンヒット位置・個数を照射後に確認するため飛跡検出用プラスチッグCR-39上に接着させたCHO-K1細胞に対して、互いに同一のLET値を持っようにエネルギーを調整した^<12>Cイオン及び^<20>Neイオンを照射し、細胞核内のDNA損傷領域の広がりを蛍光免疫学的手法で解析、同一LET値を有する重イオンのトラック構造の違いがDNA損傷の生成様式に影響することを明らかにした。2)照射後にCR-39のエッチングによって確認された重イオンヒット位置と一致して抗γH2AX抗体を用いて可視化されたDNA2本鎖切断の局在部位に非相同性末端結合を担うKu80が局在する過程をGFPを用いて観察し、照射の10〜30分後にγH2AXとKu80が共局在することを確認するとともに、異なるトラック構造を有するイオン種によってDNA損傷に対する修復蛋白質の動態が異なることを明らかにした。3)放射線抵抗性細菌Deinococcus radiodurans由来のDNA鎖切断末端結合蛋白質PprAを用いて哺乳動物細胞内に生じたDNA鎖切断損傷を可視化検出する技術を開発した。4)放射線照射細胞におけるDNA損傷の修復に中心的な役割を果たすDNA-PKcsは、低LETおよび高LET放射線によるバイスタンダー効果で誘発されるDNA損傷の修復にも関与していることを明らかにした。
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