研究課題
基盤研究(C)
高LET放射線である重粒子線の飛跡周辺の局所的エネルギー付与分布の違いが、細胞のDNA損傷と放射線応答に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、重イオンマイクロビームを用いて、イオンが直接ヒットした細胞と、バイスタンダー細胞におけるアポトーシス誘発などの照射効果を個別に解析する実験系を確立した。互いに同一のLET値を持っようにエネルギーを調整した^<12>Cイオン及び^<20>NeイオンをCHO-K1細胞に照射し、細胞核内のDNA損傷領域の広がりを蛍光免疫学的手法で解析、同一LET値を有する重イオンのトラック構造の違いが、DNA損傷の生成様式に影響することを明らかにした。このとき、抗γH2AX抗体を用いて可視化されたDNA2本鎖切断の局在部位に非相同性末端結合を担うKu80が局在する過程を、GFPを用いて観察し、異なるトラック構造を有するイオン種によって、DNA損傷に対する修復蛋白質の動態が異なることを明らかにした。さらに、重イオンマイクロビームを用いて個別のCHO-K1細胞の核以外の領域に照準した照射実験により、DNA損傷の生成を出発点とするアポトーシス誘発機構以外に、細胞膜損傷が引き金となる別のアポトーシス誘発機構が存在することを示唆する結果を得た。一方、高密度接触阻害培養条件下のヒト正常線維芽細胞への照射実験により、二次コロニー形成能を指標とするヒト正常線維芽細胞の遅延的細胞死はLETに依存しないこと、重イオンを照射したヒト正常線維芽細胞AGOI522の生存子孫細胞に形態学的な異常が誘導されること、コンフルエントに培養1された細胞のごく一部に対して重イオンマイクロビームを照射しただけで、圧倒的多数を占める周囲のバイスタンダー細胞においてもアポトーシスが誘発されること、などを明らかにした。
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