全身照射したマウスの末梢血あるいは脾臓からリンパ球を分離し、染色体分析に適当な試料を作成する条件設定を行なった。その結果、マウスの末梢血中にはリンパ球の細胞分裂を阻害する因子があるため、通常法である全血培養では染色体分析に必要な分裂中期細胞が得られないことがわかった。そこでヒトリンパ球分離用遠心チューブを利用し、マウス末梢血からリンパ球を分離・培養する方法を開発した。開発した末梢血分離リンパ球培養系および脾臓細胞の培養系の各々について、分裂中期細胞を十分量得るのに適した細胞分裂刺激剤の組み合わせや染色体凝縮剤の濃度を決定した。 上記培養系を用いて、放射線誘発染色体異常の線量効果関係について調べた。その結果、マウスの染色体は全てピンセット型のため、単純ギムザ染色で二動原体型異常を同定することが難しいこと、また環状染色体型異常の放射線誘発頻度はヒトの場合に比べて極端に少なく、低線量域の線量効果関係を調べるには適さないことがわかった。そこで、8週令のC3Hマウスを全身照射し、過剰断片を指標として10MeV中性子線のRBEを求めた(対照群はCoガンマ線照射)。その結果、脾臓細胞の過剰断片頻度が1の線量域ではRBE=1.6であった。 ヒト末梢血リンパ球のin vitro照射実験も行ない、二動原体+環状染色体を指標としてRBEを求めた。その結果、二動原体+環状染色体頻度が1の線量域で10MeV中性子線のRBEが1.6であり、マウス全身照射実験で得られた値と一致した。 現在、重粒子線治療およびX線治療を行った子宮頸がん患者あるいは東海村臨界事故時の中性子線被ばく患者等in vivo被ばく者の染色体異常分析結果を解析し、既存のパラメータよりもLET依存性が顕著なパラメータを抽出するなど、フィンガープリントの新規候補を探索している。
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