研究概要 |
放射線は、DNAに損傷を起こすことによりガンや遺伝病等を誘発する。他方、ゲノムDNA中の変異がそれら疾患の一因と考えられるが、各疾病の原因となる損傷ゲノムが核ゲノムなのかミトコンドリアゲノム(mtゲノム)なのかについては明らかになっていない。また、電離放射線によるmtゲノムDNA二重鎖切断損傷を修復する機構として、核内に存在する2つの修復機構がミトコンドリアに存在するか否かも明らかにされていない。ところで、核ゲノムの非相同末端結合機構で働く蛋白質は、Ku80等が知られている。生化学的な実験からミトコンドリアにこれらの蛋白質の一部が局在することが示唆されている。一方、相同組換え機構で働く蛋白質としては、Rad51,Rad52等が知られている。本研究では、従来から行われている生化学的手法に加えて、最近、技術革新が進んでいる細胞内小器官と蛋白質の可視化技術を用いて、電離放射線によるmtゲノムDNA二重鎖切断損傷を修復する機構として、核内に存在する2つの修復機構がミトコンドリアに存在するか否かを明らかにすることを目的に研究を進めた。本研究において、固定した(死)細胞を材料に特異抗体を用いた酵素抗体法による局在解析法に加えて、蛍光蛋白質とRad52等の融合蛋白質の細胞内局在を、培養細胞に発現ベクターを導入してライブセルの蛍光顕微鏡法により解析した。その結果、調べた4種類の融合蛋白質が培養細胞の核内に局在することを確認できた。他方、生きたミトコンドリアを染色、あるいはミトコンドリアに自家蛍光蛋白質を強制的に局在させる方法により共局在の有無を比較解析した結果、用いた検出系ではミトコンドリアへの局在は何れも観察できなかった。加えてX線等によるDNA損傷誘導時の融合蛋白質の局在変化について解析した結果、核内のDNA損傷誘導時に損傷部位への局在変化は検出されたが、同様の損傷をミトコンドリアに与えた場合には確認できなかった。
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