研究概要 |
脳の発達過程では、数万もの遺伝子が、ホルモンを含む多くの生理化学物質によって、高度に調節されながら発現し、樹状突起を伸展しシナプスを形成し神経回路ができあがる。この過程がうまくいかないと、子供の発達に様々な障害が起こることが予測される。ADHD,自閉症など軽度発達障害児の急増は大きな社会問題であるが、その原因は遺伝子異常では説明がつかず。環境化学物質などの脳発達への影響が懸念されている。OECDなどで、化学物質の発達期神経毒性動物実験が提唱されているが、膨大な種類の化学物質を調べるのは極めて困難である。本研究では、齧歯類初代脳培養系を用いて、脳発達の要である、樹状突起伸展とシナプス形成をマーカーとして、化学物質の神経毒性を調べるスクリーニング系の開発を試み、2つの有効な系を確立した。 1.神経細胞樹状突起伸展アッセイ系 小脳培養系を用い、脳発達に重要な甲状腺ホルモン依存性樹状突起伸展を簡便に定量化できるシステムを構築し、水酸化PCB類など環境化学物質の甲状腺ホルモン抑制効果を高感度で検出できる系を確立した。この結果は、甲状腺ホルモン受容体を介した遺伝子レベルの高感度アッセイと同等で、このアッセイ系の有効性が示された。 2.シナプス形成アッセイ系 甲状腺ホルモン抑制効果を示さない環境化学物質の影響を、シナプス形成を指標に簡便に定量化できるシステムを形態学的手法により構築した(大脳皮質、小脳)。シナプス形成は、脳発達の重要な要であり、ホルモンや生理活性物質が多数関与するため、どれかが抑制、攪乱されると影響を受け、マーカーとして有効である。既にシナプス機能アッセイ系も確立しているので、組合せて一次スクリーニングとして有効である。 ここ数年で、環境化学物質が脳発達に影響があると確認された物質もあるが、未確認の物質も多く、一次スクリーニング系の有効性を社会に提言していきたい。
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