工業製品として使用されていたポリ塩化ビフェニル(PCB)は工学的処理法が開発されているが、その多くはコストや近隣住民の反対から保管されたままである。環境中に放出されてしまったPCBは、低濃度ではあるが長期間にわたり環境中に残留し、生物濃縮により動物の内分泌系を攪乱するため環境にあたえる影響は計り知れない。現在、環境中に残留するこれら汚染物質を分解する様々な処理技術のなかで、地球の進化の過程で形成された多様な微生物の代謝機能を応用する試みが注目を浴びている。しかし、広大な土地に寿命の短い微生物を定着し機能を維持することは培養環境をととのえるコストがかかる。そこで、太陽エネルギーによって長期間にわたり持続的に生育する植物の特徴を生かして、特に生育時間が長く、汚染浄化能力も期待できる林木に微生物のもつ環境汚染物質を分解する能力を付与することを企てた。具体的には、PCB分解過程で生じ、DNAに損傷を与えることが知られているクロロカテコールを分解する酵素遺伝子群をRalstonia eutrophaよりPCR法で増幅し、植物用の発現ベクターにのせてポプラへ導入した。上記遺伝子群のうち、クロロカテコールジオキシゲナーゼ遺伝子とムコノラクトンイソメラーゼ遺伝子をポプラで発現させることに成功した。また、クロロカテコール分解の上流化合物にあたるクロロベンゾエートを分解する酵素遺伝子cbeABCをイネに導入し、形質転換体を得ることに成功した。現在ポプラに同遺伝子群を導入するための準備をしている。
|