研究概要 |
"固体分散相"の粉末上で有機化合物の酸化反応を行う、という新しいコンセプトによるグリーン酸化触媒反応システムを確立するために、前年度に引き続き、固体触媒や固体分散相などの最適化を検討し、以下の結果が得られた。 1.固体過酸化水素/固体触媒/固体分散相からなるソルベントフリーエポキシ化反応は、ドデカタングステン酸セチルピリジニウム塩を固体触媒とすると、常温で撹拌せずに粉末状態で行うことができ、過酸化水素水を用いる液相系を上回る反応性、再現性、および過酸化水素の利用効率を得た。この固相系システムでは、固相不均一反応に特徴的な反応効率の悪さはなかった。この反応に関与する活性触媒が、液相系のクラスター分解型活性種とは異なり、ポリ酸ナノクラスター骨格構造をほぼ維持した新規の準安定構造であることを分光学的に明らかにした。さらに活性触媒の生成しやすさとポリ酸クラスター構造との関連性を見出し、位置選択的に活性化されやすいクラスター部位を末端酸素構造‘W(=0)_2'と特定した。このような末端構造部位をもったタングステン酸触媒の合成に展開した。 2.この固相系反応は、触媒が必須であるが、固体分散相がなければ高い反応性が得られず、リサイクル利用も容易ではない。これに適した固体分散相は、様々な粉末形態(結晶性、粒径、粒度分布、比表面積、多孔性など)のアパタイト分散相の中で、結晶性が高く、表面積の小さいものであった。このような固体分散相の性質は、アパタイト以外にも見られ、低表面積のSiO_2,TCP,CaF_2などが、エポキシ化反応に有利に作用した。固体分融相の特性が、触媒の担体として多孔性で表面積の高いものが一般に有用であるのとは対照的であることを明らかにした。 3.ポリ酸触媒/アパタイト分散相/分子状酸素を組み合わせた酸化的脱水素反応を常温常圧下で達成した。α-テルピネンからρ-シメンへの変換反応を、リンバナドモリブデン酸触媒/アパタイト分散相の粉末上で、常温、1気圧の酸素を用いる穏やかな条件で行うことができ、固体触媒相は繰り返し再利用できた。
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