研究概要 |
世界に事例のない「大気中ホウ素化合物による植物被害」が発生した。水系の植物被害については、処分場排水によって稲が枯れる事例が発生し、すでに水質環境基準が設定されている。しかしながら、大気中ホウ素化合物については、法規制がなく、測定法(告示法やJIS等の公定法)が無い状況にあった。煙道排出ガスの有害ガスの測定に良く使われている『煙道外で捕集する方法』いわゆる二型方式でインピンジャーを用いて捕集する方法を開発したが、ホウ素化合物が昇華性を有するためか,他の有害ガスの測定に比べてバラツキが大きく,他の機関との同時測定や測定時間が異なる場合に変動幅が大きくなり,再現性の高い精度のある測定が出来ない現状にあった。このホウ素化合物の昇華性が原因とすれば,ホウ素化合物の昇華平衡反応を左右する温度とホウ素化合物の分圧、つまり、煙道内と煙道外の捕集部の温度差やホウ素化合物の分圧等の変化が大きく影響していると考えられる。 そこで、昇華性を有する大気中ホウ素化合物について、煙道内外の温度差や分圧等の影響の少ない一型方式(『煙道内で直接捕集する方法』)を採用した工場排出ガス濃度および環境濃度の測定法を開発し、同時に最適な捕集剤の開発を目的とした。 検討した測定方法は,第1段目に粒子状捕集用0.2μmテフロンフィルター,第2,第3段目にガス状捕集用10%K_2CO_3含浸ろ紙の3段組のSUS製フィルターホルダー(ろ紙径25mmφ用)を煙道内に直接挿入し,毎分1Lで1時間吸引し捕集する。捕集フィルターを超純水で超音波抽出し,ディスポフィルターでろ過し,メスアップし,ICP-MSで測定する方法で,定量限界は,0.3μg/m^3である。一型方式は,二型方式より(1)昇華性特有の煙道内外の温度差やホウ素化合物の分圧等の影響を考える必要がなく,(2)捕集材の能力や排出ガス温度等に制限はあるが,(3)捕集装置がコンパクトで操作が簡単なため操作ミスが極めて少なく,(4)不純物混入の少ないろ紙法の精度が高いことから,実際の煙道測定に適していると考えられる。 今後,捕集フィルターの種類を変えて、工場排出ガス濃度及び環境濃度の測定の回収率、繰り返し精度等も確認する。また、各種のアルカリフィルター、活性炭フィルターなど、最適な捕集材を検討する。 一型方式は昇華性を有する未規制物質や他の有害物質にも広く応用可能である。
|