本年度は、相補的半導体界面の電子透過の研究を行った。波が媒質中を移動すると、一般にはその位相と振幅が変化するが、相補媒質とは、変化した位相と振幅を回復する媒質のことである。相補媒質の概念は、初め、電磁場に導入されたが、その後、電子系に拡張された。自由電子の相補媒質とは、正孔系である。現実の物質で電子と正孔が存在する系として、半導体ヘテロ界面が考えられる。本年度は電子・正孔系の半導体ヘテロ接合について電子波の透過の理論的な研究を行い、相補系が現実に実現できるか否かについてその可能性を調べた。電子・正孔系の半導体ヘテロ界面としてInAsとGaSbの界面を考え、界面を透過する電子波束の時間発展を、時間に依存するシュレデインガー方程式を数値的に解くことにより求めた。その結果、初め電子系にあった波束は、界面を透過した後、相補媒質である正孔系中で再生することがわかった。波が界面を透過する際には透過による損失が必ず存在するが、相補媒質中での再生は透過損失による損失を上回り、その結果、波束は一様な媒質中を進む揚合よりも長く生き残ることがわかった。この結果は1次元系の計算により得られたものであり、InAsとGaSbのナノワイヤーのヘテロ接合系では、以上のような現象が見られるものと理論的に期待される。このような相補的半導体ナノワイヤー・ヘテロ接合系では電子波のパルスの振幅の減衰が抑えられ、より遠くヘシグナルを送ることができるものと期待される。
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