本研究で目指すのは、ナノワイヤー超格子のフォノン物性を明らかにし、さらにナノワイヤー超格子で生じるフォノンのトンネル効果を利用した「フォノンを制御するデバイス」を設計するための基礎をあたえることである。初年度は、第一段階として数学的にもっとも取り扱いやすい振動モードに関して定式化を行い、基本的な特性を理解するところから研究を始めた。 (1)ナノワイヤー超格子に生じる、azimuthally symmetric torsional mode(略してASTモード)の分散関係の定式化を行い、解析的な表式を導出した。軸方向の周期性により、分散関係に周波数ギャップが生じるが、この周波数ギャップの解析的表式も導出することができた。 (2)リード線につながれた有限周期のナノワイヤー超格子系を取り上げ、長さ方向に伝播するフォノンに対する、透過率・反射率の計算の定式化を行い、解析的な表式を導出した。 (3)この結果を、GaAsとAlAsから構成される、周期的な構造を持つナノワイヤー超格子に適用して、分散関係および透過率の数値計算を行った。 (4)導出した種々の表式を用いて、ナノワイヤー超格子における半径方向の閉じこめの効果と、軸方向の超格子構造による変調の効果を議論した。 また、導出した表式は、この先、NEMS/MEMS等において、フォノンフィルターやフォノンミラー、あるいはフォノン共振器などのフォノン光学デバイスを設計する際に有用となることが期待される。
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