本研究は、カーボンナノチューブ(CNT)をはじめとする炭素ナノ材料単体をナノプローブマニピュレーションにより直接操作し、構造とその材料が持つ基礎物性を系統的に評価・分類してデータベース化することで使用目的に応じた材料の最適化を図ることを目的とする。具体的には、透過電子顕微鏡(TEM)内でのナノプローブマニピュレーション技術を適用し、構造を観察しながら個々の炭素ナノ材料単体の引張試験、曲げ試験及び電気的特性の評価を行う。TEM内でCNTの力学物性値や、電気的特性を評価することにより、それぞれの特性に影響を与える構造的要因を原子レベルで明らかにする。最終年度となる本年度は、市販のAFMカンチレバーを装備したマニピュレーションユニットの開発により、様々な種類の多層CNTについて微小変形に要する力の計測を行った。個別に取り付けたCNTをプローブで変形させ、そのときの荷重をカンチレバーアームのたわみ量のTEMレベル計測から定量化しCNTのヤング率を見積もった。CNTの座屈、曲げ変形時の力の計測から求めたヤング率はばらつきが大きく、数十GPaから数TPaの値を示すことが明らかとなった。CNT組織のTEM観察の結果、個々のCNTにはそれぞれ製法ごとに構造的特徴があり、これが機械的性質に影響を与えていることが予想された。しかし、数種類のCNTについて実験を行った結果、CNTのヤング率は結晶性や直径など構造的特徴によらずアーク放電法とCVD法とに大別できることを示唆する結果を得た。一方、CNTの電気伝導性についても評価した結果、やはり合成法によって大別できる結果が示された。ヤング率、電気伝導性ともにアーク放電法で作製したCNTの方が優れた特性を示すことが判明した。
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