[計画] 生体の遺伝情報の担体であるゲノムDNAは、その各々の全長は数十ミクロン〜数cmと極めて長い分子であり、細胞の機能にはこのような長いDNA分子の特性が関与しているものと期待される。これまで蛍光顕微鏡による単分子観察法を活用して、溶液中の長鎖DNAの動的高次構造変化を系統的に調べてきた。本研究では、単分子観察法を二本鎖切断反応に応用し、巨大DNA分子の二本鎖切断反応の"その場"観察を系統的に行った。 [研究経過および成果] 長鎖DNAの二本鎖切断反応を単分子観測法より定量的に観測・解析することの可能であることを明らかにした。これまでは、キロ塩基対程度までのDNAでの二本鎖切断の計測がおこなわれるにとどまっていたが、本研究では100キロ塩基対に一箇所切断が入るような低損傷確率の条件下でも、信頼性のある速度論的な計測が可能となった。具体的な成果として、より生体(真核細胞)に近い条件として、長鎖DNA(106kbp)から再構成したクロマチンを用いて、活性酸素による二本鎖切断反応がアスコルビン酸によってどのように抑制されるのかを定量的に解析した。その結果、高濃度のアスコルビン酸(5mM)により、切断の反応速度が20分の1程度に抑制されることが明らかとなった。食事により摂取されたビタミンC(アスコルビン酸)は、脳や免疫関連組織においてはmMオーダーで高濃度存在していることが知られている。これらの生体系での高濃度のビタミンCの存在は、DNA二本鎖切断を効果的に抑制するとの今回の研究結果との関連で興味深い。
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