研究最終年度にあたる平成20年度では、最後のサブテーマである「ナノ-マイクロ構造におけるフォノンのキャビティーモード」に関して解析を進めた。特に、Sound-Laser(SASER)のための音響共振器として、3次元微小弾性体構造を対象に、可能な限り小さなモード体積を有する音響キャビティー・モードの探索を目指した。光エレクトロニクスの分野では、半導体レーザなど、既存の光素子を小型化し、ミクロンオーダーからナノスケールにまで縮小することが求められ、サブミクロン径の微小球やマイクロディスク、ピラー構造などの利用したマイクロ・ナノ光共振器がすでに提案されている。これらの構造ではその周縁に局在して循環伝播する電磁波のモード[Whispering Gallery(WG)モード]が存在しており、高いQ値と小さなモード体積を実現している。ところでこのWGモードは、元々音波のモードとしてRayleighにより発見されたものであり、1GHz-1THz領域のフォノン(超音波)の共振モードとして、微小SASERの開発においても、当然重要となる音響モードである。我々はこの事実に着目し、円柱状の弾性体単一ディスク構造における音響キャビティーモードを解析的に求めることを試み、円柱側面に局在する表面波のモードよりも更に低い固有振動数と、小さなモード体積を持つモード(ディスク端に局在して伝播するエッジモード)の存在を解析計算で見いだした。(より高い振動数のモードは共振器内部へ広がっており、音波のパワーが蓄積しない。}このモードはディスク側面での閉じ込めに加え、更に上面、底面における閉じ込め効果と、構造に付随する幾何学的対称性が相乗的に作用した結果、生じたものである。本結果は、微小音響共振器の設計に留まらず、光、電子との結合により、量子情報技術への応用まで視野に入れた新たなナノ量子デバイスへの展開にも繋がると期待出来、ナノ・フォノニクス分野の本格的展開を促す契機になるものである。
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