本研究においては、エージェント・ベース・シミュレーション(agent base simulation、以下ABS)を用いて、大域的なマーケティング現象(個別市場に固有の現象ではなく、遍く市場に共通する現象)が自己組織的に形成されるメカニズムを考察しようとする。まず、データに基づいて大域的なマーケティング現象を指摘した後、複数の企業と消費者をエージェントとするABSモデルを構築し、エージェント間の相互作用を通じて、当該現象が自己組織的に形成されるメカニズムを考察する。さらに、本モデルに依拠し、マーケティング戦略への実務的示唆を導出する。 平成17年度においては、以下を実施した。まず、消費者の購買履歴データ(ホームスキャンパネルデータ、10市場×10年間)により、大域的マーケティング現象として20/80の法則(少数の製品が市場の大半を占有する。売上分布の歪みを記述する)が存在することを確認した。具体的には、Mandelbrotモデル(f(r)=b(r+k)^a、ただし、r:製品の売上高の順位、f(r):売上高)が成立することを示した。次に、マーケティング論、消費者行動論、情報処理理論、社会学などにおける先行研究に依拠し、大域的な現象を自己組織的に創発するエージェント(企業および消費者)のルールの考察を試みた。並行して、20/80の法則を自己組織的に創発し得るABSとは、どのような特徴を有しているかについて検討した。
|