本研究においては、エージェント・ベース・シミュレーション(agent base Simulation、以下ABS)を用いて、大域的なマーケティング現象(個別市場に固有の現象でははなく、遍く市場に共通する現象)が自己組織的に形成されるメカニズムを考察しようとする。まず、データに基づいて大域的なマーケティング現象を指摘した後、複数の企業と消費者をエージェントとするABSモデルを構築し、エージェント間の相互作用を通じて、当該現象が自己組織的に形成されるメカニズムを考察する。さらに、本モデルに依拠し、マーケティング戦略への実務的示唆を導出する。 平成18年度においては、以下を行った。相互作用を考える際、マーケティング活動の担い手ないし対象である企業や消費者について、その相互作用を考えることのみならず、マーケティング活動の手段ないし結果である製品について、それらの間の相互作用を考えることが可能であると考えた。そして、まず、後者について、消費者の購買における製品の連鎖、すなわち、ある製品を購買することが、次の製品を購買することを惹起する現象を考察しようとした(ある消費者における製品購買の連鎖とは、消費者内における購買行動の相互作用・学習と捉えることができるだろう)。次に、企業間、企業・消費者間および消費者間の相互作用ついて、より現実に近い設定をモデルに取り込むことを試みた。これにより、より理論的および現実的妥当性をもったモデルを構築しようとした。
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